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誰かが泣いてる。
まだ幼い声。
(どうしてそんなに泣いているの?)
(痛いところでもあるの?)
「ママ~ママァ~」
(こんな森の奥で迷子になってしまったのかしら?)
「泣かないで。」
(そんなに泣いたら私も悲しくなってしまう。)
「誰…?」
「…私の声が聞こえるの?」
「どこにいるの?」
「こっちよ…こっち。君の足元にいるよ」
「…たんぽぽさん?」
「そう。私はたんぽぽ。
嬉しい私の声が聞こえるのね?
どうして泣いているの?」
「僕ね森に入ったら迷っちゃったの。
今日は早く帰らないとなのに…」
「どうして?」
「今日はお誕生日なの」
「お誕生日?誰の?」
「僕のお誕生日。」
「そう…。何歳になるの?」
「10歳…10歳になるの…」
男の子の頬を涙が伝う。
溢れた涙がポロポロ落ちて、たんぽぽの花びらを濡らす。
泣いてる男の子を見て、たんぽぽも悲しくなった。
「そんなに泣かないで。
そうだ、私の花びらを一枚抜いて?」
「…痛くない?」
「優しい子。大丈夫だから抜いてみて。」
「うん」
男の子はプチリと黄色い花びらを1枚抜いた。
「抜いた花びらを両手で握って強く帰りたいと願って」
たんぽぽに言われた通り抜いた黄色い花びらを両手で握って強く願った。
握られた両手の指の間から金色の光が漏れる。
「うわぁ!!」
金色の光は大きな球体となり男の子を包み込む。
男の子の体は金色の球体の中でフワフワと浮いた。
「その光はお家まで貴方を運んで行ってくれるわ。」
「ありがとうたんぽぽさん」
笑顔になった男の子を見て、たんぽぽも嬉しくなった。
「家まで送って行ってあげるから…明日もまた私に逢いに来てくれる?」
「うん!いいよぉ!!」
光がグリンと方向を変えて男の子を包んだまま移動しはじめた。
「約束よ!!
明日も私に逢いに来て!!
約束よー!!」
たんぽぽは長い間ずっとこの森で独りだったから男の子と話せてとても嬉しかった。
もっとお話ししたいと思った。
誰かと話す事がこんなに楽しい事だなんて知らなかったから。
あの子は明日も来てくれる。
だって約束したんだもの。
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