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【それ】は愛らしい顔に獰猛な表情を浮かべ、ヒゲはアンテナみたいに鋭かった。尻尾に紫色の怪しい光沢のリングがはめられている。
それは大きさこそかなり違うが、まぎれもなく……。
「ド…………ドブ……」
アーシャは予想外の【敵】に、ひきった声をあげる。
イザナはかわりに言った。
「巨大ドブチュー」
はるか頭上から、赤い目でイザナを見下ろしている。
「ドブネズミが【邪道具】で魔物化したみたいだね。どこかで実験され、逃げてきたらしい」
イザナは呟いた。
全身をおおう短い毛がハリネズミのようだった。
「【邪道具】絡みなら、僕もそれなりに相手するしかないか」
ひとりごち、剣を引き抜く。
腰にあるどこでも売っている安物の剣ではなく、
背中に背負っている漆黒の鞘から。
夜よりも深い闇色の刀身がのぞく。
それを軽く構え、イザナは剣の先を巨大ドブチューに向けた。
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