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イザナの言葉を聞いて、アルマはなぜか目をつりあげる。
無言で。
アルマは数年ぶりに会った少年に大股で近寄った。
腰に手をあて、イザナを見上げてくる。
イザナはドキッ!として―一歩下がった。アルマはイザナが下がったぶんだけ前に出、右手を振り上げる。
――殴られる。
イザナがそう思っていると、握り拳がぽむっ……と頬に触れてきた。
「アルマ姫?」
もう一度名前を呼ぶと、アルマが拳でイザナの頬をぐりぐりしてくる。
「イザナ。また言いました」
不機嫌そうな表情で。
あっ……とイザナは小さく声をあげた。
アルマがなぜ不機嫌なのかわかったからだ。
「……アルマ」
今度は呼び捨て。
アルマはひだまりのような笑顔を浮かべた。
本当に嬉しそうな。
「そうです。それでいいのです」
昔、言われたのだ。
呼び捨てにしてください、と。
あなたと対等でいたいから、と。
身分など関係なく付き合いたいですから、と。
笑顔で言っていた。
その笑顔が忘れられない。
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