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アルマから逃げるように離れたイザナは再び建物の屋根上にいた。
遠くがうるさい。アーシャの【力】が暴走し、騒がしくなっている。
そんなことなどまったく他人事のように気にせず、イザナは前を見据えていた。
赤い月が地上に降り注ぎ、あらゆる影をうみ落としている。
イザナの前に、一人の女の姿があった。たぶん、女だ。
身体の輪郭でそうわかるだけだ。すべてくろずくめで、目鼻立ちも不明だった。あえていうならなっぺりした顔だ。
手に大きな斧(おの)を持っている。
「あれは……」
アーシャが呟き、イザナは静かに普通の剣を腰から引き抜いた。
冷たい風が吹き抜ける。
イザナは黙ったまま……。
屋根を蹴り、女に向かった。女は斧を振り下ろし、イザナは一気に彼女の懐に入った。
そして、剣をなぐ。上半身と下半身が離れた女は後ろに倒れ、溶けるようにその姿を消した。
「不思議なことも……」
「いや、驚くこともないよ」
イザナは呟くと、あたりにも視線を向けた。
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