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「できるだけ穏便にいきたいから、僕の荷物を取り返したら逃げるよ」
イザナは白狐を宥めるようにしながら、駆け出した。
……赤い満月が頭上に大きく位置している。
それをぼんやり眺めながら、
「ん……あっさり見つかったな」
イザナはどこか人事のように呟いていた。
イザナ達が捕まっていたところからさほど離れていない場所である。
イザナは建物の屋根の上にいた。
「マスターがぐずぐずしているから、いけないのですわ」
イザナの肩の上、アーシャはため息まじりに言う。
「だって、かわいそうじやん」
イザナが自分の荷物を見つけたとき、さわぎを聞き付けた紋章魔術師の少女達が駆け付けた。
アーシャは少女達を威嚇し、爪をきらめさせながら相手にしようとした。
しかし、イザナがとめたのである。
少女達を相手にせずに逃げるのは一―苦労だった。
牢獄を出たあとも追跡され、今紋章魔術師の少女達に囲まれていた。
「さて……どうするか」
紋章魔術師の少女達の中に知っている顔を見つけて、イザナは表情をくまらせた。
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