ここに在るのは、暖かさ

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「うぅ‥山南さんさり気にひどい‥あたしの料理なんてみんな死んでもしらないんだからねっ」苦い石田散薬を水で一気に飲みほすと、瑙子は拗ねたようにそっぽを向いた。   「ま、瑙子に料理の才能があるとは到底思えないもんな」総司がケラケラ笑いながら言う。   「うっさいよ馬鹿総司!!」総司をキッと睨みつけると瑙子は土方に向き直りしおれた声を出した。「総司さんもそう言ってることだし‥あたしが作る本当に死人だしかねないから‥夕餉作るのは謹んでご遠慮させていただきます」   「却下」無情にも瑙子の願いは一瞬にして捨てられてしまった。   「~歳さんの意地悪!!鬼!!本当に本当に死んでもしらないんだからねっ」土方に背中を向けるようにして座り直し、瑙子は足を組み、庭を見つめた。   その、刹那。   「今日の夕飯は瑙子が作るって聞こえてきたんだけど本当か!?」   そこに前触れもなく現れたのは、試衛館食客の一人、原田佐之助であった。心なしか佐之助の表情は朗らかだ。   「‥原田さんどこから聞こえてきたんですか、そのような嘘」嘘の部分を強調するように呟くと、瑙子は立ち上がりニッコリと笑った。「歳さん、石田散薬やっぱり効く!おかげで頭痛がなくなった!ってことで今から総司さんと出稽古に行ってきまーす」   軽やかにその場を立ち去ろうとすると、瑙子は再び土方に首根っこを掴まれた。「いい加減観念しろ。今日のおめぇのやるべきことは夕餉の支度だ。来い」   「嫌ー死人を出したくないっ」   そのまま土方に引っ張られていく瑙子の様子を見て、残された3人は抑えきれなくなったのか爆笑した。   「瑙子の夕餉かーある意味楽しみだな」そうやって大爆笑しているのが原田。瑙子に料理の才能なんてないのは分かってるから、あえて作らせてみたいという気持ちがあったのだ。   「ですよねー本当『ある意味』楽しみですよね。一体どんな物体ができあがるのか」   総司に至ってはもはや料理ではなく物体扱いである。怖いものみたさで瑙子の料理を楽しみにしていた。   「こらこら二人とも。於瑙もおそらく一生懸命作ると思いますから、煽った以上責任持ってちゃんと全部平らげなきゃ駄目ですよ?」ね?と目元を残したまま山南は笑った。             その瞬間、二人の表情が固まったのは言うまでもない。
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