ここに在るのは、暖かさ

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「歳三さん!」 「とひひょうしゃん」   総司が瑙子の頬を掴んでいる為、微妙にハモりきれてない二人の声が重なった。     「何って‥瑙子が我が儘言うからその仕返し?」   あっけらかんとした声で総司が言う。   瑙子は頬を引っ張る総司の手を無理やり離し起き上がると土方に向かって叫んだ。「違うの、総司さんが薬持って来てくれなくて、山南さんがわざわざ‥っ」   「それだけ叫ぶ元気があるなら最初から自分で取りに行けば良かったんじゃん」   「それができたら誰が喚くか馬鹿総司っ!!」       コツン、コツン。       「「いっ‥」」   再び二人の声が重なった。土方が瑙子と総司の頭をそれぞれ軽く小突いたのである。   「ぎゃあぎゃあ煩せぇんだよ。薬がどうした?ってか瑙子やっと起きたのか?」呆れきった様子で土方が言う。   土方に小突かれた頭を大袈裟に抑えながら瑙子が言う。「うぅ‥寝過ぎちゃって頭痛くて‥総司さんに石田散薬取りに行ってもらおうとしたら‥病人に対して稽古しようとかこの馬鹿総司は言うし‥したら山南さんが通りかかってくれて‥今石田散薬取りに‥って!!土方さんがここにいるってことは山南さんどこ!?あたしの石田散薬ーっ!!」   「いつからお前の石田散薬になったお前の」土方は縁側に腰を下ろし瑙子の隣に座ると、瑙子の横に転がる空になった竹筒を総司に向かって投げた。「総司、水を汲んでこい」   「はーい」   さすがに土方の命令には従う総司である。めんどくさそうではあるが、井戸へと歩いて行った。   瑙子はそんな総司の後ろ姿を舌を出し「いーっ」と子供のように睨みつけた。   そんな瑙子の様子に土方は苦笑する。「ったく‥15になる娘がそんな真似すんじゃねぇ。嫁の貰い手がなくなるぞ?」   土方の隣に座り治すと瑙子はそっぽを向いた。「別に結婚しないんだからいいもん。一生ここで暮らすんだから。いいでしょ?」   ニコリと、土方に向かって笑む。   結婚しないつもりでいる、というのは本当である。試衛館での暮らしがあまりにも心地よく、また実家である一ノ瀬家と疎遠になってる自分が誰かと結婚できるとは到底思えないからだ。
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