ここに在るのは、暖かさ

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「ツネさんやフデさんが暇を見つけては家事を教えようとしてくれてるというのに、当の本人がこれじゃなあ」頭を掻きながら土方が言う。   「だって家事やってるより稽古してる方があたしにはあってない?」まだズキズキと痛むこめかみを抑えながら瑙子は笑顔で言う。   その笑顔に土方は大袈裟までに溜め息を漏らした。「ったく‥ちったぁ女らしくなれ?似合ってるとかじゃなくてだな。お前は『女』なんだ。稽古なんてする必要ねーよ」   その言葉に瑙子はムッとし顔を歪め土方の瞳を射た。「歳さんて案外考えが古いんだもーん。今のご時世、女の子でも強くなければならないとあたしは思うの。黒船さんが来て以来色々雲行きは怪しいし‥」   瑙子なりに必死に土方に分かってもらおうと言葉を紡いだが、それは土方の笑いで砕け散った。   「お前が心配することは何もねーから安心しろ。それより嫁入り修行!!山南さんが戻ってきて石田散薬飲んだら、ツネさん達のところに連れてくからな。今日は逃がさねぇよ?」不適に土方が笑む。   瑙子は思わず後ずさりをし、そのまま立ち去ろうとさた。「あ、あたし総司さんと稽古の約束があったんだ~ってことで歳さんまたね~」 しかしそんなに簡単にことが運ぶわけがない。最悪なことに、そこへちょうどいいタイミングで山南と総司が戻ってきた。   「おや、土方くん。於瑙が具合が悪そうでしたので、勝手に石田散薬をお借りしましたが‥」そういい山南は土方に石田散薬を差し出す。   「あぁ、かまわねぇよ。さっさと飲ませて今日という今日は台所に立たせるからな」総司水、と言い土方は総司から竹筒に入った水を受け取ると山南から受け取った石田散薬を手にし、逃げようとしていた瑙子の首根っこを捕まえた。   「おめぇが心待ちにしていた石田散薬だぞ?ほら遠慮なく飲め」   (鬼!鬼がいる!)   瑙子はしばらく土方を睨みつけた後「背に腹は変えられないって言いますしね。ありがたくいただきます」観念したかのようにぼそりとそう呟いた。         山南がクスクスと可笑しそうに笑う「おてんばでじゃじゃ馬な於瑙も土方くんだけにはかないませんね。と、言うことは今日は於瑙が作った夕餉が食べられるということですか?」
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