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僕のターニングポイントは、18歳頃だと思っている。
それは第一志望の大学の合格発表の日で、合格者の受験番号が記されている掲示板を前にした人だかりの中で始まった。
胴上げされる受験生や、親と手を取り合う受験生の歓声が耳に障り、僕は無意識に辺りの喧騒を脳内で遮断しようとしたが、そんな能力は僕にはなかった。
自分の受験番号はどこにも記されていない掲示板。
等間隔に並ぶ数字が、意味を成さない前衛的な模様のように見えてきて、僕は込み上げる吐き気に、口を手で覆った。
そうだ、結果を父さんに電話で報告するんだった……。
家族や先生に結果を報告する受験生が、公衆電話に行列を作っている。
20分くらい待っただろうか、やっと僕に順番が回ってきた。
「もしもし、父さん」
「どうだったんだ、懐史」
「……落ちました」
間髪入れずに返ってきたことばは、いまでも忘れない。
「鴎上家としては、お前を浪人させるわけにはいかない。しかし、お前を私立大に行かせる気もない」
「……どういう意味ですか?」
「好きにしろ、お前のことなど知らん」
受話器を叩き付ける衝撃音が、僕のこころを引き裂いた。
通話が終わったため、早くここから出ろと急かすように、テレホンカードが公衆電話から排出されてきた。
何度も繰り返し、ピピー、ピピーと音が鳴る。
さらに、僕の後ろに並んでいた受験生が、無遠慮に電話ボックスをノックする。
いかにも真面目そうな受験生は、まるで何かが乗り移り、狂ったかのように、目を剥いて僕に言った。
「あのさあ!落ちた報告ならあとでもいいだろ!終わったんなら出て来いよ!俺急いでんだよ!合格したこといろんなところに報告しなくちゃならなくてさあっ!」
この日が、僕がこころを見失ったきっかけだったのだと、思う。
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