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そして僕にも、いよいよ就職先を決めるときが来た。
もちろん教師になりたかったけれど……教員採用試験は、そう甘くはなかった。
大学院に通いながら受けた1回めの教員採用試験には、手応えを全く感じられなかった。
そんな調子では、当然不合格。
僕は焦っていた。
数学があまりにも苦手だから、民間企業では働けないのではないかと思っていたからなのだけれど……僕は警察官や学校の事務など、様々な公務員試験を片っ端から受けまくった。
あのとき仮に教員採用試験に受からず、警察官になっていたとして、一体僕にはどんなことができただろうか。
やっぱり僕には教員がいちばん合っている気がする。
2回めの教員採用試験で合格を掴み、大学院を卒業した次の年から、僕は晴れて社会科の教員になった。
それからいくつかの定時制高校赴任を経てから、桃李アドヴァンス高校に着任されて、いまに至る。
誰かに操られても抗わずに、誰かの思い通りに生きてきた人生に、「僕が僕である意味」はあるのだろうか、僕はずっと考えていた。
自分を、見えない糸で吊された操り人形のようだったと感じる思いは、いまも消えない。
何かを感じる僕の気持ちさえもが、誰かの都合に合わせて操作されたものなのではないかとすら思うこともあった。
教員になって、自由になってからも、迷いは多い。
誰とも分かち合えない悩みによって、内側から鍵をかけられたように閉鎖的だった僕の「世界」に、きみは現れた。
あまりにも突然で、鮮烈な出逢い。
あのときから既に、何かが始まっていたのかもしれない。
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