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修学旅行には、事前指導と言うものが付いてくる。
行動を共にしたり、同室で寝ることになるメンバー作りや、2日めの自由行動でどこへ行くかは、この事前指導時にすべて決める。
僕は藤屋さんが少し心配だった。
何故って、藤屋さんには、一緒に回る友達がいない。
僕が担当した事前指導には、藤屋さんの姿はなかった。
でも、後日提出されてきた計画書を見たら、彼女も無事に班を作れたようで安心した。
レジャーシートを引いた屋上にお弁当を広げる。
ぽかぽかの小春日和。
寝転がりたい欲求をぐっとこらえる。
もうすぐ修学旅行だね、と言うと、こくりとうなづく藤屋さん。
「楽しい修学旅行にしようね」
藤屋さんはうつむいて、ゆっくりと呟いた。
「新幹線、ひさしぶりで……少し怖い」
「じゃあ、僕のとなりにいればいいよ。何もできないけど、何か役に立つかもしれないし」
そう言い終えて、僕は結構ドキドキしていた。
断られたら傷付きそうだと、思ったりして。
しばし考えて、藤屋さんは言った。
「そうする……」
少しほっとした。
「修学旅行って言っても特別なルールは特にないから、お菓子持参してもいいし、携帯やっててもいいし、僕みたいに本を読むのもたのしいし……新幹線の中にもいろんな過ごし方があるよ。」
「うん……」
「眠いなぁ……」
お腹がふくれた僕はうとうとしてきた。
大きなあくびをした僕を見て、藤屋さんが笑う。
「先生は何時までここにいられるの?」
「1時までだよ」
携帯で時計を確認して、藤屋さんは言った。
「あと30分あるから、寝てもいいと思う」
「いいかなぁ?」
「わたし、先生起こしてあげるから」
「ほんと?……じゃ、おことばに甘えて寝ようかな」
後ろ手に組んだ腕を枕に、レジャーシートに寝転ぶ。
瞼を閉じて、眩しい青空にしばしのお別れ。
藤屋さんが時間通りに起こしてくれるまで、僕はしあわせな夢をひとつ見ることができた。
修学旅行、楽しいといいな。
まるで学生に戻ったような気分で、僕はそう思った。
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