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女の子は突然座りこんだ。僕は思わず声をかける。
「ど……どうした?大丈夫か?」
風が吹く音にまぎれて消えてしまいそうな程、頼りない細い声で、女の子はつぶやいた。
「怒らないで……」
彼女が発したことばにきょとんとしてしまった僕は、その動揺に気付かれないように、なるべくゆっくりとことばを紡ぐ。
「屋上にいたこと?……怒らないから、安心していいよ。」
「……よかった」
場所が場所だし、もしもこの子が自殺志願者だったらどうしようと思いながら、抜き足差し足、そろりそろりと女の子に近付く。
「きみ、名前は?」
「つぐみ……藤屋つぐみ」
「じゃ、藤屋さん。きみはどうやってここに入ったの?」
「ひみつです」
「そっか、ひみつかぁ。ってコラ」
ノリツッコミ。
「だって……それを言ったら、ここに来られなくなるでしょう?」
「屋上に来たかったら、僕に言ってくれれば鍵を開けるから、勝手にここには来ないでほしい。危ないからね」
大人が信用できないのか、藤屋さんは、不服だと言いたげに、苦い顔をした。
「僕もここにはよく来るんだよ。つまりはきみの仲間だ。だから、ここに来ちゃいけないとは言わない。信じてほしい」
藤屋さんの疑いの眼差しが、僕のネクタイ辺りに突き刺さる。
「……ただ、他の子連れて来たりはしないでね?ここに生徒が入ってるとなったら、上がやかましいから。」
藤屋さんは戸惑いながらも、ゆっくりとうなずいた。
「よし、約束だ。」
僕は教師として、彼女を放ってはおけないと思った。
ただ、それだけだった。
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