きみとの、であい。

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 藤屋さんと出会った日から、数日が経ったころ、職員室でレポートを添削する僕の肩を、誰かが叩いた。  藤屋さんだ。  思わず、ほんとに来たんだ!と僕が言ったら、約束でしょう?と笑う藤屋さん。 「待ってて、鍵取ってくるから」  うなずく藤屋さんから離れて、屋上の鍵を手に持つ。 「じゃ、行こうか」 藤屋さんはうなづいた。  身長も、足の長さも違うはずの僕ら。それなのに、無理に合わせなくても並んで歩ける不思議。  それに気付いた僕は、何故かとても穏やかな気持ちになって、笑った。 「きみ、僕の担当する生徒だったんだね。」  並んで歩く藤屋さんは、先生しらなかったの。と不満げに言った。   「ごめん。通信制って、抱える生徒が多いし、レポートのやりとりだけじゃ顔と名前が一致しないんだ。スクーリングでも会話しなければ名前なんてわからないし、きみの出たスクーリングを僕が担当しているかどうかも……」 「わかってる。」 「ごめんね」 「先生の名前はわりとすぐ覚えたよ。優しそうな見た目なのに、オオカミ先生。」 「動物の狼じゃないんだけどなぁ……」  鴎上懐史、おうかみかいし。  「オオカミかい?……しッ!」とか、「懐かしい歴史なんて文字を書く名前じゃ、いかにも歴史家っぽい」とか……。  僕は何度も、この名前をからかわれてきた。  生まれる前から、僕が教師になることは、決まっていた。  代々様々な教科の教師をしてきた親族ばかりの環境で、大学の考古学教授だった父に影響されて、小さな頃から歴史を学んだ。  気が付いたときには既に、僕には歴史しか武器がない状況になっていた。  思惑に囲われた環境に抗うことなく、僕はそのレールを走ってここまで来た……。
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