きみとの、であい。

6/8

22人が本棚に入れています
本棚に追加
/28ページ
 お互い黙ったまま、屋上までの長い階段が続く。  生徒立入禁止の立て看板、藤屋さんには見えなかったのだろうか。  そりゃそんなわけないんだろうけど、怒らないって約束しちゃったからなぁ。 「きょうは屋上で何するの?スクーリングは何に出るの?」  鍵を差し込みながら、僕は藤屋さんに尋ねる。 「お昼食べるの。スクーリングは、きょうはもうない。」 「パンか何か買ってきてあるの?」 「お弁当」 「じぶんで作ったの?」 「うん」 「すごいねぇ」  べつにすごくなんて、と言ってうつむく藤屋さん。 「僕は料理全然できないから、すごいなぁって思ったんだよ。」  ドアノブを回すと、金属の擦れるような音とともにドアが開き、やさしい風が身体に触れる。 「はいどうぞ。僕は昼メシ食べに行かなきゃな……」 「……」  藤屋さんが僕のスーツの裾を掴んだ。  つん、と引っ張られて、僕は立ち止まる。 「どうした?どうしたの。」 「……」 「もしかして、僕のぶんのお弁当もあるとか……?」  藤屋さんは無反応。 「……ってわけではないのか」  左右に首を振る藤屋さん。  僕は笑いながら、どっちなんだよ!と言う。 「……ある、先生のぶん……」 「あるの……?」 「ある」 「いいの?」 「いい」 「一緒に食べる?」 「……」 「……のは嫌なんだ?」  ほんとうに不思議な子。  屋上には、昔開放されていたなごりの残る古びたベンチがいくつかあった。  ここ使おうか。と僕が言うと、藤屋さんはうなずく。 「ここっていい秘密基地だよね。秘密基地なのに広いし、開放的だし、ベンチはあるし。」  僕は先にベンチに座り、足を組んだ。  背もたれに身体を預けて伸びをする。いい天気だなぁ。  藤屋さんはベンチの隅にちょこんと座って、僕とじぶんの間にお弁当を広げはじめた。 「おっ、卵焼き!甘いの?」 「うん……すき?」 「好き。しょっぱいのも好きだけど、僕は甘いほうがいい」 「よかった」  お弁当箱いっぱいに詰まったいろんなおかず。  それは本当においしそうで、お弁当箱の中身が輝いて見えた。 「わあ、ほんとすごいな!いただきます!」  まるでオルゴールが鳴るように、やさしい、やさしい時間だった。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加