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――――PM17:37。
楼は、寮の何故か防音されている自室に帰宅した。
PM18:26。楼はキッチンで水道から水をちょろちょろ流し、しゃりしゃりスライサーでごぼうと格闘中。
長い……、長い一日だった気がする。
楼の精神はボロくその布切れと化している。床に零れた牛乳を拭いた雑巾の様な、暗いどんよりとしたオーラを漂わせながら、今朝出掛ける前に水に浸けたごぼうの皮をすいでいる。明日は煮物、和の気分。
「何で煮物なんか作るつもりでいた。今朝の俺……」
嘆息し、今朝の自分を呪った。でも、料理を作る時間は何か別の事を考えられて、気が紛れる様に思った。だから調理中なのだが、ごぼうを一晩置いておこうかとも考えた。
しかし今朝8時から浸けた猛者だ。灰汁が抜けていい感じだった。こればかりは袈裟切りして煮物にドーンと入れないと、と楼。結局大変面倒な煮物作りが始まってしまい、あとは切った具材を投入してやれば出来上がる所までやってしまった。
すると其処へ、楼の自室の玄関口とも言える扉を打つ音が聞こえた。軽く小突く様な音が二~三度響く。続いて、
「……こんこん、」
(……えっ、なに口頭?)
扉を叩いた擬音の様な? それがドアの向こう側から、細く高いソプラノ、まるで女の子の様な声が楼の部屋にポソポソと聞こえてきた。声は更に続けて、
「…………どんどん、開けんかいおんどりゃ~……、しばくど~」
楼は今、人に会える状態じゃない。誰かに会って自分の状況を話したとて、取り除ける様な悩み事じゃない。気軽に自分について話せる様な、親交深い友達も『此方』には多くない。元々、会うつもりもさらさら無いから、誰が来ても居留守を決め込むつもりで居た。
(只でさえ不安とか胃の痛みがあるのに、門限ギリで寮長さんに警告されてんのに……)
小さく、「会える訳がねぇよ」と、楼は本当に小さく呟いた。そしてごぼうを鍋に投入。
「隊長~声が聞こえたでヤンス~。なぁに~そーかー分かった波動砲よーい!」
(今度は一人二役か、忙しい奴が居るな)
どうやら小さな呟きも聞き漏らさない強者が居るらしく。楼はちょっぴりドキッとした。が、ドアの鍵は忘れず閉めたと安心しきっていた。
「うぃうぃうぃ~……、ど~んっ!」
次いで衝撃音。雷が轟く様な轟音が部屋の壁を反響する。何故か防音が成されている部屋。
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