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鬱だ。と楼は四つん這いになってしまった。それを見た小山内は、更に追い討ちとばかりに話し続ける。
「土曜の午後から奇声上げて町中走り回るなんて……、ねぇシンちゃん? 君は、なんて変質者なの?」
「……、」
楼の背景をデフォルトしたら真っ暗な闇が出てくる事でしょう。
小山内はケラケラ笑いながら腕を組み、シンちゃんはいけない子だなぁ……とか、シンちゃんの手綱は僕が握らないと駄目かぁ……と、訳の分からない所で盛り上がってる。その間に煮物の鍋が若干噴いたが、楼は気付くことが出来ない。
「あっそれとね、シンちゃん? 今日の午後走り回った後でなんか変な事、なかったかな?」
「……? 特に無い……」
“アレ”は話さない。
「……あっそう、じゃあいいや」
「?」
楼は小山内のテンションがガラリと変わった質問に疑問を抱いた。
いきなりやって来て、最初から全部が疑問符だらけだが、「変な事、なかった?」と聞いた小山内の顔が今まで見た事ない程に、真面目……ぽかった。
「それで……、お前は俺にその事を聞きに来ただけか?」
「うん、まぁね? あっ! 今日は煮物? じゃあごしょーばい、するしかないねぇ~」
「……勝手なことばかり……」
楼はブツブツと文句を口にしながらも、煮物作りを再開する。
「あっ、怜。ドアと床直せよ?」
「マジか」
楼は当たり前だと言いながら、怜に命令した。
「あっ、それと今日は煮物じゃないから、晩飯は作り置きのシチューだ」
「うぇ~?」
楼の煮物がよっぽど食べたかったのか、小山内はあからさまに嫌だという風に、眉間に皺を寄せた。楼が「嫌なら別に……」と食わなくてもいいが、と言う前に、小山内は玄関と床の修理にとりかかった。
(しかし……、『此方』に来て初めて会った時から、こいつは変わんねぇなぁ。てかマジで何でミニスカ履いてんの?)
小山内は楼と約1年半程の付き合いがある。
その殆どが小山内からのアプローチだが、楼もそれほど嫌ではなかった為、今に至る訳で。
此方の高校に受かってからは、ただただ日数をこなし、無気力に生きようと心がけていた楼。
小山内はそんな楼を見て何を思ったか、友達になりやがれ。と、話しかけてから今に至る。
正直な処、今はひとりが良かったが、まぁ料理よりか気が紛れた。と、楼は心の中で小山内に少し感謝した。
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