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小山内はゆっくりと楼のベッド横へと歩き、楼の顔を覗き込む。
「シンちゃん……、祟り神の想いに囚われているね。悲しい? 苦しい? 怖い? ……でもね、シンちゃん……、」
小山内はいつの間にか楼の体に馬乗りに座って、右手に道教の様な文字の羅列する紙を持って倒れ込む。まるで抱きしめる様に。
「今のシンちゃんの想いは、荒霊(あらたま)の、国津神の悲しみや苦しみ、そして怒りなんだよ」
楼の耳に届いているかどうかも分からないのに、小山内は優しく諭す様に話しかけ続ける、
「この地の国津神が荒ぶれば、この町と、この町に住む人間に災いが降り注ぐ。それを防がなきゃいけない、」
君にはそれを助ける大きな力が在るから、君にはそれを救う強き想いを宿す事ができるから。小山内の言葉は全て楼への期待と町の住人を思うものばかり。
小山内は楼に自分の言葉を伝えた後、また馬乗りの様な状態に戻り、楼に掛けてあった布団をずらす。手に持った紙を楼の胸の辺りに飾し、何事か呟く。
「――これ――を――と。……シンちゃん、これはね、稲荷のお狐様がご用意して下さった鎮めのお札だよ? きっと効くから、戻っておいでシンちゃん。そしてあの國津神様を助けてちょうだい。シンちゃん……」
「……」
小山内は楼に話しかけながら、お札を楼の胸に密着させる様に水平にかざす、するとお札は独りでに貼り付き、楼の中へと沈み込む様に入っていった。
それを見た小山内は、何とも言えない顔で楼を見つめ、体の上から降りて布団を掛け直し、部屋を出る。
――AM9:20。楼、起床。
「ふぁ~あ、眠っ……。って、あれ? 俺変な夢見て一回起きた様な?」
まぁ今日は日曜日だからと、楼は二度寝した事にして深く思い出す様な事はしなかった。頭を掻きながら、ベッドから降りて部屋を出た。そしてびっくり。
「でさぁ、何でお前が此処に居るんだよ。怜」
「何でって、決まってるじゃないか、朝ごはん」
ミニスカ宇宙人、小山内 怜がリビングルームで呑気にお茶をすすって居た。鍵は昨日あの後しっかり掛けた筈だ。楼は慌てて玄関を見に廊下への扉を開けた。
「そう毎日毎日、同じ失敗は繰り返さないよ。ちゃんと、合鍵作ったさ」
「何時だよ!?」
「それより、朝ごはんは?」
話しても無駄と悟り、楼は朝から溜め息を軽く吐きつつ、煮物を温める準備を始めた。
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