72人が本棚に入れています
本棚に追加
住宅街。
近隣は山々に囲まれ、町の左右には大きな川が流れてる。街はその川の本流を2つに割った中州の様な場所にある。
町の名前は卯之神町。人口20万人程の小さな町だ。
木瀬通りから西へと走る影が。
彼、楼 晋吉(やぐら しんきち)は走っていた。
マラソンランナーも真っ青な全力疾走をかれこれ20分。今止まったら、足腰の震えを抑える自信がまるでない。
(ニアミスだったんだ。だってあれじゃん? 人は間違いを乗り越えて成長するんじゃない? だからこれは、ミスはミスでも小さなミスだ)
「までやぁっ! ゴラァァああああ!!」
「待てませんから!」
怒号を鳴らして大挙してくる不良の群れ、よくコンビニの前とかで、「おい少年ちょっとジャンプしてみ?」とか言ってカツアゲとかするタイプの、黒いパーカーとダボダボズボンを着崩している4~5人が、1人の少年をどうにかして張り倒そうと、躍起になって追いかけていた。
――さかのぼる事20分前。
「はぁー金欠だ。あんな物を買ってしまう自分の財布のヒモが許せねぇ!」
腰まである黒い長髪を揺らしながら、中肉中背のひとりの男が、自業自得と言う言葉を脳内辞書から省きつつ、スーパーマーケットの中を品定めしながら歩いてる。
このあいだ本屋の怪しい親父が薦めて来て、ごり押しに負けて買った本、『誰にでも簡単に魔法が使える便利な本』。
「『簡単』と、『便利』って言葉に割と弱いんだよなぁ……、ヒモの野郎が……」
財布のヒモは特に関係ない。そしてノーと言えない典型的日本人思考な少年が悪い。
「まさか『アレ』が、セレブな奥さま達が御用達な感じの、只の料理本だとは思わなかったからなぁ」
しかし何故に本屋の親父は、男子高校生に料理本を? 頭が薄いから、脳みその中もなんか薄くなってんじゃね? と、自分を納得させる少年。
「だけど、まさかこんなに料理にハマっちまうとは! 俺としたことが、不覚!」
料理本自体を買う余裕は、財布のヒモも綽々だった。
が、うっかり最初に開いたページが、大好物の四川風の炒め物の作り方だったのが敗因か?
(最近の食材の値段高騰にも、財布のヒモは惜しむ事もなくつぎ込んで)
思いながらカゴにピーマンやらナスをほおりこむ少年。余裕も料理の材料費に消えていく。
これらは全て自業自得だ。
最初のコメントを投稿しよう!