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「あれ?」
鍵穴が合わない? 少年は自転車をもう一度よく確認した。
「どこから見ても俺の『浪花号』だよな?」
では、何故鍵が合わないのだろうかと、腕を組んで考えていると。
「あぁん? お前オレのチャリに何してくれとんねん?」
剃りの入った坊主頭の不良Aが現れた!
「え? あれ?」
少年は剃りこみAから聞いた情報を疑った。
可笑しい……。これは確かに『浪花号』だ。19800円(いちきゅっぱ)の性能を誇る『浪花号』だ。
しかし備え付けの鍵穴が合わない。本当にこっちが間違えたのだろうか?
「おっ?」
だが、とても重大なある物を見つけた少年。
「ここに俺んちの住所と、名前が刻まれてんだけど?」
自らの彫刻刀を用いて彫りこんだ住所(実家)と、自分の姓と名。
楼 晋吉(やぐら しんきち)。
神山町二丁目17の××番地。
楼は、剃りこみAに対して若干の憤怒を込めて、正にやっちゃったなお前、どうすんの? と、言外にでも分かる様なうすら笑いを浮かべた。
更にずびしっ! と、指まで差して。
「んんっ、んなわけねぇんだぁ~よっ?」
剃りこみAくんはどうやら軽く逝ってるらしく、まともに会話出来ない様だ。もう関わるのは止めて、居心地の良い我が家に帰ろう。
楼の差していた指は、力が抜ける様に段々と曲がっていった。
楼が出した答えは逃走だった。が、剃りこみAは阻む様に近くに居た仲間を呼んだ。
どうやら何らかの作戦が失敗した旨を、仲間達(こちらも剃りこみがキツイ)に話している。やはり若干剃りこみAがラリってるからか、話が上手く掴めてないご様子だ。
話が終る頃には、リーダーっぽい男が剃りこみAの話に顔を赤らめた。
(な……、何を話しやがった? てか自転車の鍵穴何で合わない! 反抗期かこのやろー!)
夢とか希望とか積んだ『浪花号』は、どうやら剃りこみAの仲間に細工されたらしく、差し込んでも鍵が外れない仕様になったらしい。
(外れないなんて言って、実はバッタもんの玩具渡す夏祭りの出店と同じだろ? 抜け道を探せ! そして動け『浪花号』!)
なんとかして『浪花号』を動かして、一刻も早くこの場から離れたい楼。
鍵穴が合わず動かないにも関わらず、ガチャガチャと音を鳴らして『浪花号』にライドオンしようとするも無駄。
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