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全くの沈黙を繰り返す『浪花号』。
これは……、まずいかも知れない。なんとかしなければ、なんとかされちゃうかも知れない。
(動いてくれよ浪花号~!)
何度楼が呼びかけても、只のママチャリである『浪花号』はうんとも寸とも言わない。
迫る危機に直面してる現実、と言うものに気付かないふりの楼さん。現実逃避って奴を現在実行中。と、その時。
「おい。そこの、長髪の方」
「はぇいっ?」
いきなり背中から声をかけられ、意識を『浪花号』に集中した性か、ヤバいと思いながらも振り向いて返事を返した結果、何か変な音が口から漏れた。
恥ずかしいと思ったか、楼の顔は真っ赤だ。思わず楼は少しうつ向いてしまった。
しかし、振り向いた時に見た声をかけてきた男は、楼の様子も構わず話を続ける。
「先ず、すまなかった。ウチの、馬鹿共が、アンタの、チャリンコに、何やら、如何わしい、細工を、施した、らしい。あまつさえ、バレバレな、嘘を、付いて、金品を、巻き上げ様と、した、らしい。本当に、すまない事を、した」
(棒読みじゃねーか! 目付き悪っ! 剃りこみキッツー!)
すまないと謝罪を述べながら、剃りこみAが呼んだリーダーらしき人物は、頭を下げてきた。どうやら舎弟が勝手にやった事らしい。
楼は始めこそびびったが、リーダーの謝罪する姿を良く見た。
頭を下げると言う姿勢がきちんとしている。心からの謝罪の様だ。そういう奴は、そう悪い奴ではないだろうと楼は思った。
第一に、謝罪してるんだからこの場はもう大丈夫だろうと思い、楼は少し先の事を考える。当然だが、『浪花号』を元通りにしてくれないと困る。早く元通りにしろ。と、心の内で然り気無い台詞を考えた。
「あー、いや。気にしてねーよ。自転車さえちゃんと元通りにしてくれたらな。俺は事を荒だてたりしねーからさ、あんたも頭を上げてくれ。別にあんたが謝る事ねーよ」
これが正解だろう。
楼は、リーダーらしき人物にさりげなく『浪花号』をどうにかして欲しい。と、頼んでみた。
すると、リーダーはゆっくりした動きで若干反応してから、また口を開いた。
「すまない、な」
リーダーは楼の言葉に若干嬉しそうな反応を見せた。……何か怖い。
それに楼自身が気付く事はなかったが、リーダーがむくりと動いた瞬間、楼は何故か若干後ろに後退りしてしまってた。
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