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捕まったら自分どうなるんだろう? そんな楼の不安が、脚力に奇跡を振り撒いたのかも知れない。
考えながら全力疾走する楼は、もうお前陸上部入れよと言いたいくらい余裕だった。
信じられない様な軽やかなスピードと持久力で逃げ続けている楼。手にはずっしりと重そうな、野菜やら肉が入ったビニール袋。
「あけみぃぃぃぃ! じゅんこぉぉぉぉ! ジェェスカァァァァ!!」
「分かったお前! バカだろ?! オマエバカナンダヨー!」
「兄貴をヴァカにするなァァああああ!!」
剃りこみ集団のリーダーこと兄貴は、女の名前を叫びながら楼を追いかけ、手下達の剃りこみ集団は泣きながらリーダーを追いかけ、微妙にアンニュイな表情の楼は、気持ち悪くて気持ち悪くて仕方がない気分で、ただただ走り続ける。
ひとつ浮かぶ疑問。
それは……。
(何で俺、こんなに走れるんだよ?)
ビニール袋をガサガサ鳴らしながら、楼は自分の身体の異常事態に混乱し出した。
(てか、全く疲れてないし。あと2、3時間走れる気がする……)
「キモッ!?」
「うわぁん!!」
「兄貴になんて事ォォおおおお!?」
楼は、走りながら自分の異常な身体能力について冷静に考えてみた結果、当然の如く鍛えた覚えもなかった。
「何コレ超気持ち悪い」
「うぉろろ~ん!!」
「うぐっえぐっ……、ひでぇ……、何も……、そこまで……うぐっうぅっ……」
泣きながら走るとか、なに青春してんだよ剃りこみジャンキー共が、と楼は口を開こうとしたが、また何か言えば言うだけ嫌な反応があると思い、やめた。
「まぁ……、いくらでも走れるとかより飽きたし。もうどうでも良いから早く家に帰りたい」
楼は思わず心の声を洩らしたが、無意識にボソッと呟いたので剃りこみ集団には気付かれなかった。
一番大事な疑問を抱く勇気を持たない楼は、もうとにかく早く寮の部屋に帰りたくて、仕方ない気持ちでいっぱいだった。
(撒こう)
意外とついて来てた剃りこみ集団だが、リーダー以外は既に10m位離れた場所から、テコテコ速歩きみたく走っていた。
限界を超えました的な顔だ。
汗だくで、呼吸器大丈夫? と心配したい位ゼハゼハと息を吐き出しながら、何とか追って来てる。
(見ててグロイ。これは早目にケリを付けた方が良いみたいだな)
楼は足の裏に力を入れた。
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