天津神来れり

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 大きな橋だ。  二車線ずつあり、歩道も結構な広さがある。下には大きな川が流れてて、こちら側には住宅が立ち並び、あちら側には森が広がり山がある。楼はその橋と住宅の十字路の歩道に立っている。  無音過ぎる。確かに人は居ないが、何か変だ。  気のせいかなと、直ぐにこれからどうしようか? と楼が考えだした時。ぼーっとつっ立っていた楼は、いきなりビクリと全身を震わせた。ガサリと手に持つビニール袋が揺れる。  確信とは言えないが、何かべったりとした……まとわりつく感覚が、楼の全身を捉えてる。誰かにジッと見つめられている。そんな『気配』がする。 (なんだ、この感じ……)  初めて受けた感覚に対して、楼は無知だった。それが若干の感情を付与された、興味の対象として受けた視線だと言う事には気付かない。  今日は初めて起きた出来事が多すぎた。異常な身体能力が主だったが、その他もろもろが楼の精神に多大な負担を与えてる。だからキョロキョロと辺りを見渡す事もせず、楼は感じる違和感にはノータッチで別の事を考え始める。 (あ~もう! 訳が分からん。『浪速号』は放置だし、剃りこみ兄貴には多分、いや予想だが……、女と……間違われて……追われたし…………)  言ってて悲しくなってきた楼さん。潤う長い黒髪は、後ろ姿に真横を向かれても女しか出せない匂いが醸し出されてる。仕方ないさ、コレでも一応気を使ってる髪なんだから……と、楼は顔を真正面から見られて尚、可愛い娘ちゃんと言われた事を忘れていた。  違う考えない様にした。これ以上負担を増やしたくないからが理由。  楼は遠い目で、気付くと目端に水が一滴落ちていた。 (兄貴はやっぱり皆のアニキなのか?)  やはり若干混乱してる。しかし直ぐにハッと正気を取り戻し、楼は今の状況を抜け出したく考えた。 (取りあえず……。今は何を気にしてもしょうがない。こんな所で考えてもまとまる訳が無い。此処からおさらばして、自分の部屋に帰ってゆっくり休んでから、その他色々考えよう。うんそうしよう)  楼はまた走り出した。とにかく早く帰って休みたい。精神的に疲れる事ばかりだったので、料理でも軽く作って食べて、満腹になってベッドで眠りたい。と、楼は取りあえず疑問は明日に回し、来た通りとは違う通りを探して走り出した。 「……、」  橋の先、山の奥から受ける何者かの視線も気にせず。
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