27人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
声もあげず崩れ落ちた男を残して、俺は足早に建物を出た。
徐々に明るみを増す裏通りを駆け抜けながら思う。
確か、あの部屋にカメラは存在しなかった。
指紋だって残してないし、部屋だって荒らしてない。
俺がデータを盗った証拠なんて、残ってない。
俺が男を殺った証拠なんて、残ってない。
(―――俺は、きっと捕まらない。)
絶対的な、確信。
予想外な出来事は起こったにせよ、”飢えた狼(コヨーテ)”は今宵も、狩りの成功を収めたのだ。
―――もう、どれくらい走っただろうか。
あの建物から、ある程度離れた路地の、小さなベンチに腰掛けて息をつく。
今宵の任務は終わった。
ボスに言われたデータも手元にある。
(……これが俺の、生きる術。仕方のない事だ。)
走ったせいで乱れた呼吸を整えながら、俺は俺に言い聞かす。
ヒトを撃ったのなんて、実際問題初めてじゃなかった。
これまでの任務で、拳銃を向けたヤツなんて沢山いるはず。
―――それなのに、何故だろう……?
あの時の光景が、脳裏に焼きついて離れない。
……あの写真の、幸せそうな顔が。
最初のコメントを投稿しよう!