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放課後になり、陽一は覚悟を決めて中庭のテラス席へと向かった。
中庭に向かう度に、一歩が重く感じる。
自分で落ち着かせるように言い聞かせながら、キャンパスから中庭に出る出入り口に差し掛かった時だ。
真正面に見えるテラス席で、彰吾が香里と楽しそうに喋っているのである。
その光景を見た途端、陽一は踵を返していた。
(やっぱり、俺に近付くなって言いたかったんだ。)
いつの間にか、涙が頬を伝っている。
腕で拭っても涙が止まらない。
どうして初恋が同性の、幼馴染の恋人なんだろう。
二人の楽しそうな表情を見て、心が壊れそうだ。
キャンパス内に入り、その足で帰ろうとした陽一はとぼとぼと廊下を歩いていた。
すると、背後から陽一を呼ぶ声が聞こえたのだ。
(この声は・・・。)
その場に立ち止まり、後ろを振り返る。
何と、そこにはさっきまで中庭のテラス席で香里と楽しそうに喋っていた彰吾がいるのだ。
(どうしてここに・・・?)
信じられなかった。
今さっきのことなのに、なぜ彰吾が自分の前にいるのかが分からなかった。
驚き戸惑っている陽一を前に、中庭から走ってきた彰吾は息を切らしながら、彼の前に立ち止まった。
せーはーと息を整え、彰吾は少し怒った表情で言った。
「どうして逃げるんだ!話したい事があるから来て欲しいってメールで送ったじゃないか!」
「す、済みません。」
(だって、香里と一緒なんて聞いていないし・・・。)
喉まで突っかかっている言葉を言わずに飲み込む。
謝った後、黙り込んでいる陽一を見て、彰吾は彼の手を掴むと近くの教室に連れて行った。
陽一を中に入れ、彰吾は誰も入って来ないようにとドアに鍵を掛ける。
カチャッと鍵を掛ける音を聞いて、陽一の心臓がドクドクと高鳴り始めた。
(何で?どうして?)
全く自体が飲み込めない。
背後に立っている彰吾の顔が見れなくて、陽一は背を向けたままだ。
それでも彰吾は躊躇しながらも、話を切り出した。
「メールで呼び出してごめん。どうしても片瀬君に話があるんだ。」
「・・・・。」
「まずは、昨日のことだ。どうして清水さんと一緒にいたんだ?」
突然、彰吾から昨日のことを持ち出されて、陽一は驚きながらも何故か安堵していた。
(もしかして、話しって昨日のこと?じゃあ、俺の気持ちはばれていないのか?)
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