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教授を送り届け、孝史は陽一から自宅の住所を聞くとカーナビに入力をした。
入力して数秒後、画面に地図とルート案内が開始されたので、孝史はカーナビの指示通りに車を走らせた。
教授の自宅から陽一の自宅まで、カーナビでは二十分に到着予定となっている。その間、孝史は色々な質問を陽一にしては興味深げに聞いていた。
今の若い世代がどういう考えをもっているのかが知りたいのだ。
教授から書庫整理のアルバイトをしている陽一の話を聞いてから、孝史は興味以上に陽一という人間に会って話してみたいと思っていたのだ。
それが今日、実行できた。
しかし、陽一は人見知りが激しいために心をそう簡単には開いてくれない。それどころか、話しかけない限りは黙ってしまうのだ。
二人で話したくでも、教授がいて出来ない。その教授がいない今、孝史はしつこいと思われるぐらいに陽一に話しかけていたのだ。
一方、陽一は話しかけられる事が苦痛でたまらなかった。
(このまま、自宅までこういう状態なのかな?嫌だなあ。)
人と関わること自体が苦手である陽一は、いつも行っているコンビニが視界に入ると、孝史に言った。
「清水さん、車を止めていただけませんか?」
「何でだい?」
「自宅付近なんです。後は歩いて帰りますので。」
「判った。」
孝史はコンビニを過ぎたところで、車を停車した。
シートベルトを外し、陽一は『ありがとうございました。』とお礼を言って、ドアを開けようとした時だ。
背後から孝史の腕がドアにバンッと音を立てて叩いたのだ。
まるで、車の外に出させないような素振である。
突然のことで、陽一は驚きながらも後ろに振り返って孝史を見た途端、一気に表情を青ざめた。
夜で車の中も暗くてよく見えないはずなのに、何故か孝史の顔がしっかりと見えたのだ。そしてさっきまでは笑っていたはずの表情が、怖いぐらい真剣になっているのだ。
彼の顔を制止できない陽一は、咄嗟に顔を背けようとしたが、瞬時に孝史の空いている手で固定されてしまい、そむける事が出来なくなった。
「し、清水さん?」
「片瀬君。彼女とかは・・いないの?」
「いません。」
「彼氏は?」
「彼氏って!!」
ふと脳裏に、彰吾の顔が浮かんできた。
(何で桐嶋さんの顔が?あの人は香里の恋人なのに!)
混乱している陽一に、孝史はふっと笑みを浮かべるとゆっくりと口を開いた。
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