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背中から陽一が怖がっているのが伝わってくる。
余程怖い目に合ったに違いない。
そして三人の緊迫した様子を、香里が黙って見守っている。
「いい加減、気に入った子を強引に口説くのは止めた方がいいですよ?それで昔、問題を起こしたのをお忘れですか?」
「判ったよ。桐嶋の知り合いだったら、手を出さなかったよ。」
彰吾の背中に隠れている陽一に向けて舌打ちをした孝史は、車に戻るとそのまま車で走り去って行った。
安心したのか、陽一は思わずその場にしゃがみ込んでしまったが、寸でのところで彰吾が肩を掴んだ。
そして香里も、すぐさま二人のところに歩み寄ると陽一の心配をした。
「大丈夫?陽ちゃん。」
「ああ。助かったよ、香里。それに桐嶋さん、ありがとうございます。」
「無事で良かった。今の、文学部卒の清水孝史だろ?」
「はい。」
「彰吾さん、知っているの?」
「知っているも何も、三年生以上の生徒は知っているさ。」
彰吾の話によると、孝史はがM大に在籍していた時、男女問わず自分の好みな子を見つけては強引に迫り、無理やり関係を持ったのだ。そして飽きると捨てるという非道なことを繰り返していながら、成績は優秀なので教授受けは物凄く良かった。
卒業後も教授の推薦で関西の大学で院生をしているのだが、さすがに教授の面目を潰さないように大人しくなっていると風の便りで聞いていた彰吾は、陽一を見て彼好みのタイプだとすぐに判ったのだ。
それで血相を変えて陽一を助けたのだと、香里に伝えると『さすが彰吾さん!』と香里はギュウッと腕に抱きついた。
途端に、陽一はその場に居辛くなったのか、彰吾に頭を下げてお礼を言うとすぐさま家へと向かって駆け出したのだ。
自宅に向かいながら走っている間、陽一は自分の気持ちを自覚した。
『俺は、桐嶋さんの事が好きなんだ。人としてではなく、恋愛対象として・・・。』
自分の気持ちを自覚したと同時に、陽一の恋は失恋した。
彰吾は香里と付き合っている。
幼馴染の彼氏を奪うことは出来ない。
この時、陽一は彰吾も自分と同じ気持ちである事に全く気付いていなかった。
いや、知らなかったのだ。
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