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それは、半年前のことである。
念願のM大学文学部に合格した片瀬陽一は、毎日が嬉しくてたまらなかった。
昔から本が大好きで、いつか文学を真剣な学びたいと考えるほど、文学少年である。
そんなある日のこと、陽一は経済学部に進学した幼なじみである真崎香里に呼ばれたのだ。
将来、小さな雑貨さんを経営したいという夢のため、香里は陽一と同じM大の経済学部に進学をした。
もし、夢を抜きにして進学を決めるのなら、陽一と同じ文学部を目指していたのだが、やはり自分の夢を叶えるのが第一だ。
両親からは『家政科に行って欲しい。』と言われていた香里だが、頑として経済学部だけを志望校にして受験勉強を始め、見事に合格をしたのだ。
これにより、両親は何も言わなくなった。
香里の家庭の事情を陽一が詳しいのかは、家がお隣同士で香里の母親が常に陽一の母親に話しているのだ。
それを息子が聞いている。
香里もそれは知っていたので、隠し事ではないが他人の家庭の事情を聞かされるのも、いい迷惑だと陽一は思った。
香里から携帯電話のメールで『食堂で待っているから、早く来てね。一緒にお昼を食べましょう。』と告げられた陽一は、講義を終えると急ぎ足で食堂へと向った。
キャンパスから食堂まで急ぎ足で十分。
食堂の入口に入った陽一は、券売機で食券を購入すると、カウンターで食券を出した。
そしてトレイに注文したキツネうどんを載せると、キョロキョロと辺りを見回した。
香里と待ち合わせをしたものの、どこにいるのかが分からないのだ。
すると、窓側の席で手を上げている香里を見つけたので、陽一は歩き出した。
近付くにつれて、香里が一人ではないことに気が付くと、陽一は思わず足を止めてしまった。
(もしかして、まずいところにきたのかな?)
昔から陽一は場の空気が読めないということで香里から散々怒られていた。それを思い出した陽一は踵を返そうと、回れ右をした時だ。
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