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母親だからこそ言えることだ。
再び支度をする手を動かした陽一は、机の上で充電している携帯を手に取り、画面を開く。
彰吾からメールが届いているかを確認したのだ。
息子の仕種を見て、更に一言。
「あんた、彼女でも出来たの?」
「違うよ!何でいきなり?」
「だって、外泊も多くなったし。今だって携帯を気にしているのなんて、彼女からメールを確認するためじゃないの?」
(勘が鋭いって。)
苦笑しながらも、メールが入っていないことを確認した陽一は、携帯を充電器に挿すとカバンの中に荷物を入れ始めた。
携帯で思い出したのか、母親がため息をつきながら陽一に注意をした。
「そういえば、お父さんが怒っていたわよ。」
「何で?」
手を動かしながら、母親と会話をする。
きっと小言しか言わないだろうと予想しているからだ。
「四六時中、携帯ばかりをいじって男らしくないって。」
ビンゴだ。
携帯に関しては食事の時も肌身に放さずに持っているので、何度も食事の時に父親と喧嘩をしたことがあった。
どうやら怒りの矛先を、陽一から母親に向けたのだろう。
それでも携帯を部屋に置くことが出来ない。
いつ、彰吾からメールや電話が来るか判らないのだ。
その場に出ないと陽一の気が済まない。
息子の意志が固かったのか、これ以上言ってもダメだと諦めた母親は、また何かを思い出したのか会話を続けた。
「携帯で思い出した。あんた、香里ちゃんと最近会ってないの?」
「えっ?」
突如、香里の名前が出てきたので、陽一は思わず小さな動揺をした。
手を止め、驚きながら母親の顔を見ると、母親はきょとんとした表情で話を進めた。
「この間の土曜日も訪ねてきたんだけど、ここ最近顔すら合わしていないって、怒ってたわよ。」
「そ、そう・・・。」
「大学でも合わしていないんですって?いくら学部が違っても香里ちゃんとは幼馴染でお姉ちゃん見たいなものじゃない。」
「・・・・。」
「それに香里ちゃん、あんたに相談したいことがあって訪ねて来ているのに、居ないっていうとしょんぼりした表情で帰るのよ。見ててお母さんの方が辛いわよ。外泊もいいけど、少しは家にいなさいよ?」
「・・・・判った。後で香里にはメール入れておくよ。」
香里のことを伝えて、母親は部屋から出て行った。
部屋に一人になった陽一は、更に動揺を隠せなかった。
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