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(そうだ、俺は香里に・・・。)
彰吾のことで相談されていたのを、すっかりと綺麗に忘れていた。
同時に、香里は彰吾の彼女であることも思い出したのだ。
動揺が抑えきれない。
陽一は、幼馴染の彼氏と隠れて付き合っている。
これはいけないことだ。
しかも彰吾のことで香里は悩んでいるのを知りながら、香里の存在を自分の中から消して、彰吾との甘い時間を過ごしている。
許されないことなのに。
ダメだと判っているのに、彰吾との関係を断とうとすら思っていない自分が怖い。
動揺しながらも、携帯のアラームが鳴る。
バイトの時間だ。
陽一はためらいながらも、カバンをしめると携帯を持って部屋を出た。
バイトの後、いつものように彰吾の部屋に行くことが決まっている。
バイトが終わり、陽一は携帯の画面を見た。
メールが一件、と表示されており、操作をしてメールを開くと彰吾からだ。
『あと十分で迎えに行きます。待っててくれ。』
(彰吾さん・・・・。)
昼間の、母親から聞いた話が一瞬にして消えるぐらいの喜びだ。
陽一は『了解しました。』と返信をして、携帯をポケットにしまった時だ。
「あれ?陽ちゃん?」
不意に呼ばれ、陽一は後ろを振り返った。
何とそこには香里が驚いた顔で立っているのだ。
脇には大学の入学式の時に配布された名入りのビニルカバンを持っており、どうやら学校帰りのようだった。
だが、時間的には既に夜の十時を過ぎている。
そんな時間まで学校に用があるのだろうか?と考えていると、香里は陽一の心を見透かしたのか、説明した。
「今までサークルのメンバーと話していたのよ。それで遅くなったわけ。」
「な、何だ。びっくりした。」
「私の方がびっくりしたわよ。もしかしてここの本屋さんでバイト?」
「ああ。平日に二回と土日にね。」
香里と話している間にも、携帯のバイブが鳴っている。
彰吾が到着したのだろう。
しかし、今のこの状況の中では非常にまずい。
だが、今日サークルの活動があったというのなら、彰吾だって遅くなるはず。
一人黙っていると、香里が思い出しだように陽一に愚痴を言い出したのだ。
「そうだ!陽ちゃんに話したいことが一杯あるのよ!今日こそ、聞いてもらう・・・。」
そこで香里の言葉が止まる。
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