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驚いた表情で視線を陽一の背後に向けている香里を見ておかしいと思った陽一は、彼女の視線の先へと顔を向けた。
何と、そこには彰吾が驚いた様子で立っているのだ。
当然、陽一も驚きを隠せなかったと同時に、心の中で『しまった!』と思った。
香里には学校の外で彰吾と会っていることを話していないからだ。
心臓がバクバクと鳴っている。
動揺の余り、固まっていた陽一を無視して、香里は驚きながらも口を開いた。
「どうして彰吾さんが?確か、用事があるからって先に帰ったはずなのに・・・。」
香里の声が微かに震えている。
この場から逃げ出したい気持ちにある。
沈黙の時間が苦痛だ。
しばしの沈黙の後、彰吾は静かに答えた。
「用は済んだ。ここに居るのは、片瀬君がバイトをしている本屋さんで予約をしている本が入荷されたという連絡を受けたから来たんだけど・・・お店は閉まったようだね。」
「当たり前じゃない!普通は九時に閉店よ?」
「ここは十時まで営業しているんだ。間に会わなかったなあ。」
彰吾は何とか嘘をついて、ここにいる理由を香里にごまかしていた。
だが、陽一はパニック状態だ。
納得したのか、まだ腑に落ちないのか、香里は『そう・・。』と答えると、陽一の横を通り過ぎ、彰吾の腕に飛びついたのだ。
刹那、ズキッと胸が軋むのを感じる。
「ねえ、今からドライブに行かない?久々にデートがしたいの!」
「ダメだ。明日は講義があるだろ?」
「でも!」
「俺も帰るから、お前も帰れ。」
「仕方ないわね。陽ちゃん、一緒に帰ろう?」
「えっ?」
「いや、片瀬君はダメだ。」
彰吾は思わず制止してしまった。
これには香里も驚き、陽一も驚いた。
彰吾も気まずい表情をしていたが、すぐに機転を利かして事情を伝えた。
「いや、片瀬君にはお店のスタッフに予約した商品を時間外でも受け取れるかを確認して欲しいんだ。だから、一緒に帰られると困るんだよ。」
「それなら明日でいいじゃない!」
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