偽りの関係

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 部屋に入ると、彰吾はすぐさま香里にお詫びのメールを入れた。  そして電源を切り、そのまま充電器に差し込むと陽一を抱き寄せた。  彰吾に抱きしめられた陽一だが、頭はさっきの香里の泣き顔が焼きついて離れなかった。  黙り込んでいる陽一に、彰吾は耳元で告げた。 「大丈夫だよ。香里のことは俺に任して。」 「でもあいつ、泣いていた。」 「・・・・・。」 「香里は彰吾さんが好きで、一緒にドライブをしたいと思っていた。それを俺が潰した・・・。」  もし、自分が香里の立場と逆だったら同じ気持ちになると思う。  それを考えると自分がいかに香里を裏切っているのかを思い知らされる。  目を閉じれば、香里の驚いた表情が目に浮かぶ。  陽一と彰吾の二人を見て驚きを隠せないのと、何かを疑っている表情が入り混じった様子の香里に、これからどうやって接したらいいのか判らない。  判らないまま、陽一は彰吾の腕の中で夢の世界に誘っていった。 「だから、違うと言っているじゃないか!いい加減にしてくれ!」  彰吾の声で陽一は目を覚ました。  ベッドヘッドに置いてある自分の携帯を手に取り、画面の時間を見る。  時刻は朝の七時だ。 「まだ七時か・・・。」  寝ぼけ眼を擦りながらも再び眠りの世界に入ろうとした陽一だが、また彰吾の怒鳴り声が聞こえたのだ。 「だから言っているだろ!いい加減にしないと怒るぞ!」  普段から彰吾が怒ることは少ないはずだが、ここまで声を荒げることは滅多になかった。  不思議に思った陽一はベッドから起き上がると、側のソファに掛けてあった彰吾のシャツを着ると、ゆっくりとした歩調で寝室から出た。  ガチャッとドアを開けると、リビングではズボンをはいただけの彰吾が携帯電話で誰かと話しているようだ。  表情は険しく、近寄ることも出来ない雰囲気になっている。  入口のところで陽一は黙って彼の様子を伺うことにした。 「だから、今日大学に行った時に話す。それでいいだろ?判った。十二時に中庭のテラスだな?」 (誰かと待ち合わせをするのかな?)  相手の気が済んだのか、携帯を切ると彰吾は深刻な表情でハアッとため息を吐いた。  今の電話で相当神経と体力を使ったようだ。  陽一は心配の余り、声を掛けようとしたが出来なかった。  今の彰吾は物静かに怒っているからだ。  
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