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声を掛けずに黙って突っ立っている陽一に気が付いたのか、彰吾がフッと彼に向けて微笑を浮かべる。
まるで、疲れがたまっているような笑みだった。
「彰吾さん?」
「ああ、おはよう。ごめんな?起こしちゃって。」
「一体・・・どうしたんですか?」
「いや、何もないよ。朝ごはんの準備をするから、支度をして来いよ。」
そういって、彰吾はキッチンへと向かって行った。
気になった陽一だったが、ふとテーブルの上に彰吾の携帯電話が置かれていたので、心の中で『勝手に見てごめんなさい!』と謝りながら、陽一は彰吾の携帯電話を見た。
着信履歴を見た陽一はその瞬間、驚きを隠せなかった。
先ほど、彰吾が声を荒げて話していた相手が香里だったのだ。
着信履歴に『真崎香里』の名前を見て、陽一の脳裏には瞬時に昨夜の光景が浮かび上がった。
(もしかして、香里にばれたの?)
頭の中が真っ白になる。
香里にばれた=裏切っていると改めて自覚をした陽一は携帯をテーブルの上に戻すと、寝室に置いてある自分の服に着替えて、カバンを持って彰吾の部屋から飛び出した。
彰吾の部屋から飛び出し、陽一は駅に向かって走っていた。
ショックの余り、彰吾の側にいたくないからだ。
(香里に彰吾さんとのことがばれた!どうしたらいいんだ!)
走っていた陽一だが、だんだんと息が切れたのか、近くの公園のベンチで休憩をすると、カバンの中に入っていたペットボトルのお茶を取り出し、一気に飲み干した。
深呼吸をして息を整えた陽一は、しばらく考え込んだ。
彰吾が声を荒げたのは、きっと陽一との関係を彰吾に問い詰めていたに違いない。
昨日の今日だ。
絶対、彼女だって気になっているに違いない。
何故なら、香里は彰吾の彼女だ。
彼女である限り、彰吾が別れない限りは陽一はただの浮気相手。
まさか、幼馴染の彼氏を好きになり、隠れて付き合っているなんて思っていないだろう。
ショックを受けていた陽一だが、すぐにベンチから立ち上がると駅に向かって歩き出した。
三十分後、自宅に戻った陽一を待っていたのは、母親と香里だった。
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