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「陽ちゃん!ここでいいのよ!」
香里の甲高い声が陽一を呼び止めると、陽一はゆっくりと席の方に視線を向けた。
香里の隣には見たことも、会ったこともない男が笑みを浮かべて座っているのだ。
テーブルの上には紙コップのコーヒーが置いてある。
香里も食事を終えたのか、それともお茶していただけなのか。
同じ柄の紙コップか置かれている。
陽一はしっかりとご飯を食べるつもりだ。
それだけでも恥ずかしいのに、見知らぬ男性と一緒に食事をするのはもっと恥ずかしい。
呼び止められ、渋々と向かい側の席に座った陽一は、ダッシュでうどんを食べるとこの場からすぐにでも離れようと考えていたが、無駄に終わった。
うどんを食べていると、香里が隣に座っている男を見て陽一に紹介を始めたのだ。
「陽ちゃん、こちらは経済学部三年生の桐嶋彰吾さん。同じサークルに参加しているメンバーなの。」
「初めまして、桐嶋彰吾です。よろしく。」
「・・・文学部一年の片瀬陽一です。」
自己紹介を簡潔に終えて、陽一はズルズルとうどんを食べ続けた。
そんな陽一を無視して、香里が話し始めた。
香里と彰吾は旅行好き同好会のサークルに参加しており、先輩と後輩の関係なのだという。
確かに香里はよく友達と旅行に行っていたが、サークルに入っていることまでは知らなかった。
入学してから二ヶ月。
陽一はサークルには入らず、アルバイトをしながら欲しい本を購入するという生活を送っていた。
サークル活動すら興味がない陽一に、なぜ香里は彰吾を紹介するのだろうか?
疑問に思いながらも陽一はうどんを食べ終わると、トレイを返しに席を立ち上がった。
「俺、次の講義があるから戻るわ。」
「えー!まだ話は終わってないよ?」
「俺は忙しいの。後は桐嶋さんと二人で話してろよ。じゃあな。」
そう言って、陽一はその場から離れたのだ。
これが、陽一と彰吾の出会いである。
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