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香里はしょんぼりした表情で話を進めた。
「付き合ってから一度も家に呼んでくれないの。あたしたち、本当に付き合っているのかな?」
「なら、桐嶋さんに聞いてみたら?付き合っているんだからさ。」
「うん・・・。」
返事はしているものの、なんとなく納得していないらしい。
陽一は食後のお茶を飲みながら、心の中では複雑だった。
さっきまで、陽一は彰吾とベッドの中で抱き合っていた。
そして目の前には、彰吾の彼女である香里がいる。
二人の間に入り、裏切りながらも香里の恋愛を応援している。
何て馬鹿げたことをしているのだろうかと、自分でも思ってしまう。
(俺、香里に隠すごとなんて出来ないよ・・・。)
彼女に気付かれないように落ち込んでいると、香里の携帯が鳴った。
「あっ!彰吾さんから電話だわ!それじゃあね。」
大好きな彼氏からの電話に、香里は即座に席から立ち上がると早足で陽一の家から出た。
その様子を洗面所から出てきた母親がにっこりと笑う。
一方、陽一はお茶を一気に飲むと食器をキッチンに置き、自分の部屋へと戻った。
そして机の上で充電している携帯を手に取り、画面を開く。
着信とメールがしっかり入っていた。
もちろん、両方とも彰吾である。
黙って帰ったことに対して怒っているのかな?と思い、メールを開いた陽一は驚きを隠せなかった。
『陽一へ。俺は決意をしました。香里と別れます。別れて、お前とちゃんと付き合いたい。』
「彰吾さん・・・。」
嬉しい反面、困惑している。
結局は香里を悲しませてしまう。
先ほどの、嬉しそうな顔を見てしまった後で、このメールの内容は直視できない。
どう返事をしたらいいのかすら、判らない。
陽一は画面を閉じると、ベッドの上にうつ伏せになり、静かに涙を流した。
一刻と、悲劇が訪れるのを待っているかのように。
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