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惹かれ合う二人。
食堂の一件から一週間は経っていた。
陽一の生活は相変わらずで、講義を終えると文学部担当の教授に依頼されたバイトをして帰宅する毎日だった。
教授が依頼したバイトは書庫整理。
色々と本を購入してはその辺に置いておくという行動が祟ったせいか、どこに何の本があるか分からなくなったのだ。
そこで書庫整理のアルバイトを掲示板で貼ったところ、陽一の一人だけが応募したので、その場で決定。
以来、講義が終わると二時間だけ教授の書庫整理のバイトをしているのだ。
そして今日も書庫の整理をしていた陽一は、ポケットの中に入っていた携帯電話のバイブが鳴っていることに気が付き、手を休めて携帯を手に取った。
香里からだ。
「陽ちゃんへ。今日は暇?もし良かったら、サークルの飲み会にゲスト参加しない?返事待ってまーす。」
「またかよ・・・。バイトだから、断るっと。」
断りのメールを入れ、携帯をポケットに入れると再び作業を開始する。
一ヶ月前からほぼ三日に一度、香里から飲み会や食事の誘いがメールで届く。その度に陽一はバイトがあるといって断っているのだが、相当しつこかった。
さすがにイラッとした陽一は一度だけ、怒りメールを送った。
『いい加減にしろ!俺が飲み会みたいな人の集まりが嫌いなのを知ってて誘っているのか?幼馴染ならそれぐらい気を使えよ!』
陽一がかなり怒っているのをメールで読み取ったのか、しばらくは香里からのメールはなかったが、落ち着いたと思った頃にまたメールで誘ってくるのだ。
怒りを通り越して、呆れてしまった陽一は無視をしても意味がないと諦め、常に断りのメールを入れているのだ。
他人との交流が大好きな香里としては、少しでも陽一に多くの人と交流を持って欲しいという気持ちなのだろうが、ありがた迷惑だ。
携帯をしまい、作業を進めていたが終わりの時間が来てしまった。
作業を中断し、陽一は今日までの作業を報告書でまとめると、教授に一言告げて部屋から出た。
時間は既に六時を過ぎていたが、窓からは茜色の光が入っている。
これが夏に近くなると、もっと日が長くなるだろう。
窓から見える夕日がとても綺麗で、陽一は思わずその場に立ち止まった。
M大の文学部の教授たちがいる棟から見える景色が一番好きだ。
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