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周りは山に囲まれて、田舎の中にある大学だと別の大学に進学した友人たちからはからかわれているが、この景色を見れば考え方も変わるだろう。
初めてM大に来た時、陽一はトイレに行った後に迷ってしまった。
時間も過ぎて行き、色々と歩き回っていた陽一はふと、窓の外の景色を見て驚いた。
初冬の時期だったので、日野は入りが早かったものの、一瞬にして目に奪われるぐらいの美しい景色だった。
これが、陽一がM大に入るきっかけを与えたのだ。
他には文学部に力を入れているのと、自宅から一時間弱で行けること。
後は、バス通学をした事がないという理由も入っているが、バスから見える景色が綺麗だというのが一番だ。
その場で外の景色を眺めている陽一に、ある人物が声を掛けた。
「あれ?確か・・・片瀬君だよね?」
「えっ?」
苗字を呼ばれ、陽一は声が聞こえる方へと視線を向けた。
彰吾である。
一週間前とは違う、決まった服装で目の前に立っている彰吾を見て、陽一は無意識に構えていた。
何故なら、彰吾は香里と仲が良いからだ。
同じ学部で同じサークルの先輩と後輩の関係である香里と彰吾。
多分、香里は彰吾に恋心を持っている。
長年、彼女を見てきたのだからそれぐらいはすぐに把握できた。
そのせいか、彰吾=香里の彼氏と思い込んでしまい、陽一は何故か警戒心を持ってしまったのだ。
(彼女の幼馴染が男なんて、彼氏からすれば嫌な存在だよなあ。)
陽一なりの見解である。
「あの・・・。そう構えられても困るんだけどねえ。」
驚きながらも、ジーッと見ている陽一の視線が痛いのか、彰吾は焦りながらも笑みを浮かべる。
それでも彼の警戒心は解かれることはなかった。
(かなりの人見知りなのかなあ。)
彰吾は内心焦りながらも、再び陽一に声を掛けた。
「真崎さんから聞いたけど、石塚教授の書庫整理のアルバイトをしているんだって?」
「はい、そうですけど・・・。」
「俺も一年の時、選択科目で石塚教授の講義を取得したら、ボランティアで書庫整理をさせられた事があるんだ。」
「はあ。」
(うわあ、絡み辛いなあ。)
一週間前の食堂の時は、陽一の幼馴染である香里がいたから、ある程度は喋っていたのだろうが、さすがに彰吾と二人だけでは会話が弾まない。
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