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食事を終え、話も尽きないまま、店を出た二人は改札口に着くまで話していた。
やはりすれ違う度に女は彰吾を見ている。
それほど、彰吾には女を惹きつける華を持っているのだと、陽一は実感した。
改札口に到着し、陽一は頭を下げてお礼を述べた。
「今日はありがとうございました。ご馳走にまでなってしまって・・・。」
「いいんだよ。片瀬君と話ができただけで十分だし。」
「えっ?」
「じゃあ、また明日。真崎さんに会ったらよろしく伝えておいて。」
「はい。それじゃあ、お休みなさい。」
陽一は笑みを浮かべながら、カバンのポケットから定期券を取り出して改札の中に入った。そしてそのまま、ホームへと向かって歩き出したのだ。
この時、彰吾が陽一の後姿が消えるまで改札口で立っていたことも気付かないまま。
自宅に戻ると、携帯電話のLEDが点滅しているのに気が付いた陽一は画面を開いた。
不在着信が一件入っており、ボタンで操作をしてみると香里からだった。
すぐさま香里の携帯に電話をした陽一は、明日の講義の参考書を用意しながら香りが電話に出るのを待っていた。
コール七回で香里が電話に出た。
『陽ちゃん?今、帰ってきたの?』
「ああ、そうだよ。キャンパス内で桐嶋さんと会ったから食事をして帰って来たんだ。」
『彰吾さんと?』
香里の声が突然と変わった。
それに、彰吾を名前で呼んでいることから、陽一の思っていたことは確信した。
(やっぱり、桐嶋さんと香里は付き合っているんだ。)
心の中でそう思っていると、香里の声が耳に入ってきた。
『だからか、メールや電話をしても反応がなかったのは・・。』
「約束をしていたの?」
『ううん。飲み会に参加してねって声は掛けていたんだけど、最後まで姿を見せなかったら気になってたの。』
「そう・・・。」
『陽ちゃんだけに伝えておくね。私、彰吾さんと三日前から付き合うことになったの。』
「そうなんだ。良かったな。理想タイプの人と付き合えて・・・。」
『うん!』
その後、三十分近く香里と電話で話していたが、何故か彰吾の名前を聞く度に陽一の胸が痛んだ。
(どうしてだろう。どうして、香里の口から桐嶋さんの名前を聞く度に胸がズキッと痛むんだろう。)
自分ですら解らないまま、夜はだんだんと明けていった。
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