夢よりも遠く

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振り向くな、と脳みそが命令したけどもう遅い。腹が立つほど鈍感な体はあたしの意思を無視して半身を捻り、声のした方に顔を向けていたひまわりでさえ太陽を追いかけないっていうのに。 男の人がいた。 あたしの健気な脳みそはフル回転、望みもしないのに過去の記憶を引っ張り出す。 記憶アルバムに情報の一致を確認、余計なことすんな、感情回路と連結、バカ、バカ、 いらないことを思い出す。 「やっぱり丸山だ。何やってんだ、こんな時間に」 喉がわなないた。 記憶は蘇った。彼は知っている人だった。五年前の顔ももっと昔の高い声も、野球部だったことも数学が苦手だったことも全部全部全部全部 回路は突然ショートした。 言葉の代わりに吐き気がせり上がって来て、あたしはその場から逃げ出した。 おい、と彼の声がするあたしは口を押さえて吐き気と悲鳴を必死で飲み込む。 叫びたかった、叫び出したかった。 そうやって理性的な全てを拒絶しなければ潰れて死んでしまう。 中学を卒業して五年。 社会から逃げて四年。 大好きだった人から逃げて、二十秒。
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