恋よりも遠く

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夜明けを控えた空の下をあたしは歩いた。 刺すような冷気は高揚した脳みそをなぜか助長させる。 世界に一人になったみたいな錯覚。 歌いだしたいほどの上機嫌。 「あれ」 一人きり。かと思いきや、背後から声がした。 振り返るのと声の主を突きとめるのは同時。ただ時間と場所が意外。 「やっぱマルヤマだ。何やってんだこんな時間に」 緑色のジャンパーが目に鮮やか、白い息を吐く少年。あたしのクラスメイト。 そして、あたしの好きな人。 「散歩。っていうか、あんたこそ何してんの」 「さんぽ」 寒そうに両手をポケットに突っこんだまま笑う。 あたしのテンションの上がりようといったら、そりゃあもう。 世界に一人だと思ったら二人で、その相手が好きな人。 これで嬉しくなかったら人間じゃない。
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