恋よりも遠く

4/4
前へ
/14ページ
次へ
真冬の早朝に道の真ん中で、あたしとタカウチは話をした。 別に学校に行けばいつでもできるような話を、馬鹿みたいな寒さの中で飽きもせず。 きっとあたしだけでなくタカウチも変なテンションだったんだ。 楽しかった。 ただひたすらに楽しかった。 関係は普通のクラスメイト。特別仲がいいわけでもない。だからこんなに喋るのは初めてで、嬉しかった。 タカウチも楽しそうだった。少なくともあたしから見て。 そのうち空が白んできて、気付いたタカウチが坂の向こうを指差す。 夜明けだ。 真っ白な朝日が遠くのところで顔を出していた。あたしは毎日繰り返されているはずの光景に妙に感動して、すごいね、と呟いた。 すごいな、とタカウチは言った。 何年経っても。全部忘れようとしても。消えるはずのない記憶。 それはただの偶然が生んだ時間で、あたしと彼との距離を詰めたわけでもない。何かが変わったわけでもない。それでも一番大切な、大切な記憶。 忘れたくても忘れられない。 心臓が痛んでも。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加