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――…1888年。ロンドン。
一人の男が歩いている。
数m歩いたところで、男は突然立ち止まった。
「コイツか…。」
目の前には、二人並んで楽しくお喋りをして歩いている男女。今回は男の方に用がある。
楽しそうな二人。そんな時間ももう終わりだ。
ほら、暴走した馬車が来た。
男は即死。女は奇跡的に生き残る。それが"決まり"。
そう思っている間に馬車が男に突っ込んだ。
叫び声、悲鳴。そして泣き声。
もう聞き飽きた。
「いや、いや……!!いやよ!!いやァァアアア!!」
血にまみれ、腕や足がおかしな方向へと曲がり、変わり果てた男を揺すり起こそうとする女。
無駄だというのに。本当に愚かだ。
俺は死神。
文字通り死の神であり、魂の管理人。
ただただ、魂を回収するだけ。
毎日がくだらない。
いつもどおり魂を回収し、さっさと立ち去る。
はずだった。
「待って!!」
男の魂を回収しようとした時、女は叫んだ。
俺の顔をしっかりと見つめながら。
偶然かと思ったが、女は俺の方に四つん這いで近づいて来る。
そんな、まさか。有り得ない。俺達死神は人間には見えない。死に間際の人間ならともかく、この女にはまだ寿命がある。
霊感が強くても、俺達は霊とは違う。
初めての経験に俺は戸惑った。
周りの人間も、おかしな状況に騒ぎ始めている。
俺は逃げるように、死の国へと消えた。
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