虚像

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虚像

20XX年…東京新宿区  暗黒が支配する天に、悠々とその存在を誇示するが如くそびえ立つ摩天楼…。  しかし…その場には、嘗ての活気はない。  ただ一つあるのは、その足元に仁王立ちする機械の巨人の姿であった…。  血の通わない異質な存在のソレは、辛うじて命の灯火を繋げようとしている小さな街灯の不規則な点滅の灯りによって、その全貌を露わにする。  ダークグレイのその装甲は、分厚く、妙にせり出した肩部分が、やけに目に付く。洗練された円滑なボディラインは、空気抵抗を最大限に抑え摩擦計数を縮小する逆三角形ライン。機体にそぐわぬ細い脚で器用にバランスを保ちながら、その場に立ち尽くす姿は、正に近代のテクノロジーの全てを集約したエクサビシャン。  それをフォローする三方向に伸びるフットスタビライザーが、芸術的とも言える逆三角形を描いて地面に接していた。時折、胸の排出ダクトより、熱風と共に粉塵を吐き出している。機体に籠もる熱を放出する放熱版の役目も兼ねているのであろう…。  その直ぐ脇に構えられた、これまた不釣り合いなほど大きい銃器が、脚とは正反対の太いマニピュレーターにジョイント。補助コンデンサーによる照準システムのデバイスコードが、その腕に繋ぐ。  機体名はST-074エノーク(扱われる者の意)。  全長6m程のその機体の内部…そう一般的にコクピットと呼ばれる部分に、ヘルメットと酸素マスクを身に付け、黒いパイロットスーツに身を包んだ1人の男がいた…。  彼の目の前の外部広角メイン単眼カメラから映るメインディスプレイサイドの感音探知機が、微妙な違和感のある音を察知して、警戒音と共にモニターにマーキングをし始めた。次々と薄緑の円形のマーカーが点滅移動し、その標的の場所を凝縮された赤い警戒色の円で示す。マーカー脇の数字が示すは標的との距離…僅か4m。
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