虚像

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 パイロットは突如のこの静寂を破る耳障りな音に自らの心臓を打ちひしがれ額から流れ出る異様な汗を感じるに至った。  血の気が退いた蒼顔の瞳は無意識にそのモニターに映るマークを追っている。鼓動が体を伝わり脳の頂点まで到達する。体の内部から聞こえるこの不快な振動を抑える為深呼吸をして気持ちを落ちつかせる…と同時にコクピットの下部にあるアクセルペダルを踏み込んだ。  機体操縦は足部のアクセルと方向機、そしてマニピュレーターを円滑に動かす事の出来るCAS(コネクトアクティブシステム)…指と手の甲を覆うようにセンサーが付いておりその動きをそのままマニピュレーターに伝える機能…により繊細かつ円滑な動きをも可能にしている。  変則ギア可動。バランサーの高感度ジャイロ機能を駆使して6tの巨体がうねりをあげ動き出す。機体はそのままそのマークされた場所に吸い込まれるように進んでいった。 ―ー突然、暗闇から閃光がほとばしる  その閃光の後に自らの機体の第一装甲板を抉る金属音が機体フレームを通じてコクピット内に響き渡ったのをその彼は聞き逃さなかった。  「こちら…G-H-1…反政府組織と思われる銃撃を受けた…。これより制圧に入る…」  無線の向こうから気だるそうな応答が入る。  「こちら…G-H-3…了解…援護は必要か…」  精気のないその声に苛立ちさえ感じながらも彼は無線を返した。  「ち…1人で…十分だ…」  マニピュレーターを固定後、感音探知機を熱源探知機へ切り替える作業に移る。  「何人だ…子鼠め…」  肩部分に設置されたLED照射ライトが音も立てずに点灯して辺りを照らす。  「出てこい…」  熱源探知機には2人ほどの影と路上を慌てて走り回る小さな都会の住人の姿が映っていた。  再び閃光が走ったかと思うと肩部分のライトが子供の頃に味わった事のある懐かしい…しかし嫌畏な音を立てて砕けちった。  「ちっ…こざかしっ…もう1人は…」  変則ギアトップ。アクセル全開。圧縮サスペンション可動。エノークがその巨体に似ても似つかぬような動きで動いた。まるで宙を舞うかの如き軽快な動きで…。  フットブレーキと補助エンジンブレーキ可動。自動照準システム始動。メインディスプレイのマーカーに照準マーカーが重なり合う。    
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