虚像

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 両脚がコンクリートの地面に固定されると瞬時にライフルのトリガーを引いた。  巨細な銃口を持つ重量感のある銃の下部バレルから橙色の火花と共に砲声を放つ!  このライフル上部は対装甲兵器用の120mmL7ライフル砲となっておりその下部には対人用の30mm機関銃が付いている。そのサイドにはサブアタッチメントとしてグレネードランチャーを装着できる。重武装式多重構造型対装甲ライフル『メルカバ』である。これ1つで戦車砲塔の役割をも持つ。自動装填式カートリッジなので重量と全長はかなり大きいがSPTUの武器として対白兵戦用として重宝されている。  ―ーいつもの用に時間が止まり自らの思考回路を停止させるー―  目の前に幾重もの映像が浮かびその刺激が脳の伝達回路を破壊する。その脳裏に刻み込まれた記憶の断片は彼が生きてきた道のりその物であった。  涙に顔を濡らす子供達…  悲鳴をあげる少女…  そして…無惨にも地べたにうつ伏せて身動き1つとらない老夫妻…  …俺は…誰だ…  その苦悩を掻き消すかのようにひたすらに真っ赤に過熱した僅か数cmの鉛の塊を無造作に乱射していく。  いや…違う…掻き消すのではない。その銃撃音の振動が脳内を刺激し、中脳辺緑系ニューロン内に過剰蓄積されたドーパミン物質をアドレナリンへと変換。血圧と心拍数を上げ負の力を全面に闘争心へと移行させているのだ。  既に廃屋と化している当時の権力の象徴でもあったコンクリートの朽ちた建造物の壁をも巻き込みながら。  無数の薬夾がアスファルトの地面に散乱して行く音が銃声とのレクイエムを奏でる中、その壁の前に佇む花壇のレンガがまるで豆腐のように軟らかい物であるかの如く徐々にその異物によって削られていく。  機関銃の銃口から弾が射出されなくなるとそこに一筋の白煙と硝煙の匂いが立ち上った。肩で息をするパイロットの周りは再び漆黒の静寂が支配していた。
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