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「わた、しは、…………ゆ、君、の……ね?」
その言葉に、僕は思わず顔を上げる。その先には、あたかもそれが彼女の象徴であるかのような、絶えた記憶が無い笑顔があった。
服が汚れるのも厭わず、袖で涙と血を拭う。しかし、僅かに視界が明確になったのも一瞬、断続的に流れ出る涙は再び僕の双眼を塞いだ。
「ほ、ら……泣くんじゃ、ない、の……」
「でも、でも、でも……!」
土下座だった。
役割を喪失した僕の両手は、今にも崩壊しそうな僕の体を支える。床に跪く。今にも内から僕を瓦解させかねない感情の渦が、自己防衛の如く涙となって排出されていく。
……何が。何が、何がッ! ……何が、自己防衛だ。
僕は許容されざる罪を犯した。咎人だ。――生きていては、いけないんだ。
僕の右手に再び握られた鉄の塊の矛先は、僕のこめかみに向いていた。衝動的ではない。これが贖罪だから。僕が知りうる、全ての人への。
「駄、目……」
なのに、貴方は小刻みに震える左手を、紙みたいに重さが感じられない左手を、その過剰なほどに力を込められた僕の右手に添えるんだ。
「なんで……? 僕はッ……!」
「貴方、が死んだ……ら……愛華が、悲しむでしょ……?」
腰砕けになって、部屋の角で血の海に溺れて、すぐそばまで死の足音が迫っているというのに――なんで、今更そんな事が言えるのだろう。所詮は子供に過ぎなかった僕には、到底理解できなかった。
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