【二人】

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「いつ作られたのか、正確な製造日は把握していない。私たちは双子の人形。マスターによって作られた、ツインドール。私たちは同一であり、また相違なるもの」 まるでロボットが話しているような口調だった。 彼女の言葉には温度がない。 柔軟性も癖も、感情と呼ぶべきものが欠落しているのだ。 話しているというより、言葉を発しているという表現の方がしっくり来る。 「姿も魂の質も大差ない。違うのは、彼が壊れていること」 「壊れている?本体の人形が?それとも、本人が?」 「両方。本体は修復可能。けれど、心は壊れている。元々そうなのか、所有者の著しい変化が原因なのかは一切不明。人為的魂を持つ彼は、いつしか《人間》になることを望み始めた」 「それが壊れてるって事か?」 「そう。私たちは魂を持っても感情は持たない。なのに、彼はそれを持ち、叶わない望みさえも持ってしまった」 確かに、ナイトメアは《人間》になりたがっている。 以前から薄々感じていた。 《人間》になりたいから、猫になることを望んだ隆哉を軽蔑し、敵視していたのだろう。 「やがて望みは強くなり、いつしか彼の魂は本体を離れ、独り歩きを始めた。更には、他人の望みや願いを喰らい始めた」 「《悪夢》をだろ?」 「違う。私たちは勝手に《ナイトメア》と呼ばれているだけで、実際は《悪夢》じゃない。《強い願望》、それが私たち」 この時初めて、バニラの言葉に力を感じた。 まっすぐな瞳には光さえも見えそうな気がした。
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