【階段】

11/17
前へ
/300ページ
次へ
ゆっくりと覗き込むと、そこには息を切らせた池田奈緒がいた。 過呼吸寸前の息遣いで少し心配になったが、息を整えると再び走り出した。 “……少し前に上へ向かっていったはずなのに、どうして?引き返してきたのかな?” いや、そんな様子は微塵もなかった。 それから十分くらいすると、池田奈緒は去った方向とは逆の方から姿を現し、僕の前を通り過ぎていく。 二度三度と僕の前を通り過ぎた頃、とうとう立ち止まった彼女に僕は声をかけた。 「……何のために走ってるんです?」 「え?……君、ついて来てたの?」 「いえ。ずっとここにいました」 「……ずっと?」 「えぇ。ずっと」 僕は立ち上がりながら、「池田さん、歌、歌ってて」と頼んだ。 「歌?」 「はい。何でもいいですよ。邦楽でも洋楽でも。音楽であれば。できれば、ポピュラーで、僕が知っているようなものがいいですけど」 それだけ告げて、僕は階段を下り始めた。 しばらくして、アップテンポな曲が聞こえてきた。
/300ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17903人が本棚に入れています
本棚に追加