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ゆっくりと覗き込むと、そこには息を切らせた池田奈緒がいた。
過呼吸寸前の息遣いで少し心配になったが、息を整えると再び走り出した。
“……少し前に上へ向かっていったはずなのに、どうして?引き返してきたのかな?”
いや、そんな様子は微塵もなかった。
それから十分くらいすると、池田奈緒は去った方向とは逆の方から姿を現し、僕の前を通り過ぎていく。
二度三度と僕の前を通り過ぎた頃、とうとう立ち止まった彼女に僕は声をかけた。
「……何のために走ってるんです?」
「え?……君、ついて来てたの?」
「いえ。ずっとここにいました」
「……ずっと?」
「えぇ。ずっと」
僕は立ち上がりながら、「池田さん、歌、歌ってて」と頼んだ。
「歌?」
「はい。何でもいいですよ。邦楽でも洋楽でも。音楽であれば。できれば、ポピュラーで、僕が知っているようなものがいいですけど」
それだけ告げて、僕は階段を下り始めた。
しばらくして、アップテンポな曲が聞こえてきた。
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