17903人が本棚に入れています
本棚に追加
「話さない方がいいですよ。想像以上に苦しそう」
「……ここは……」
池田奈緒は僕に抱えられながらも、手を近くのギターに伸ばして掴もうとしていた。
僕はギターを手に取り、彼女に近づけた。
伸ばしていた長い指で弦を弾いたが、長い間チューニングしていない弦は緩みきっていて、聴き心地の悪い音を奏でた。
けれど、池田奈緒は微笑んでいた。
顔色は相変わらず悪いのに、穏やかで安心したような表情をしていた。
「ここは、ゴミ箱」
「ゴミ箱?」
「私が……上に行きたいがために、捨てたものが、ここに……」
その言葉を聞いた瞬間、確信した。
彼女が何故階段を駆け上がっていたか、何を目指していたか……。
「この夢の意味は……出世願望じゃないんですか?池田さん」
「……そうかも、ね」
池田奈緒は自嘲気味に笑う。
「本当は音楽の道に進みたかった……。でも、できなかったの……。諦めて、父と同じ科学者を目指したわ……。けど、私は気付いたの。夢の中なら、好きなことができる。好きな夢を見られれば諦めなくてもいい……。もっと上に……出世すれば、研究費用も設備も充実するもの……。そして、研究の先に辿り着いたのが、《ナイトメア計画》よ」
後のことは大体想像がつく。
僕は、もう話さないように注意して、彼女の額に指を置いた。
その時、数メートル先に誰かがいることに気がついた。
よく見えなかったが、髪の長い少女でピエロの格好をしていた。
しばらくすると姿が消えてしまったので、気のせいだと思った。
けれど、本物の《悪夢》は現実にあることをこの数分後に僕は気付かされることになる。
最初のコメントを投稿しよう!