【階段】

16/17
前へ
/300ページ
次へ
この部屋は、こんなに赤かっただろうか。 この音は、何だ。 この鉄のような匂いは、何なんだ。 僕の頭が正常に動くまで、こんな馬鹿げたことを考えていた。 答えなんて分かっているはずなのに……。 「池田、さん?」 池田奈緒は狂ったように自分の胸を刺し続けていたのだ。 周辺は血に染まり、部屋にはドスドスと包丁が身に刺さる音が響き、嘔吐感を誘うような匂いが満ちていた。 彼女の意識はもう無いだろう。 虚ろな瞳には何も映っていなかったのだから……。 〈見つけた……〉 誰かの声が聞こえたのと同時に、池田奈緒の動きは止まり、床へと倒れこんだ。 僕は驚いて、尻餅をついたまま後ろへ下がったが、何かが背後にいることに気がついた。 そこにいたのは、半透明の少女だった。 池田奈緒の《悪夢》にいた少女だ。 「君は……?」 〈私は……誰?〉 それだけ言い残すと、彼女は消え去ってしまった。 残されたのは僕と、アンティークドールと、池田奈緒という名の死体だけだった。
/300ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17903人が本棚に入れています
本棚に追加