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部屋にいてもやることが何も無い。
勉強したり、本を読んだり、無意味に部屋の中をぐるぐると歩き回ったり――。
けれど何をやっても、あの光景を思い出して身震いしてしまうのだ。
池田奈緒が、自らの胸を刺している、あの姿を……。
“そういえば、《悪夢》の中でも胸を押さえていたな……”
あの時に気付いて、現実に帰っていればよかったのだ。
それなら、重傷を負ったとしても命は助かったかもしれない。
「はぁ……」
僕はベッドの上に突っ伏して、何度目か分からない溜め息を零した。
その時、誰かが床を踏む音がした。
ギシッという床板の軋む音だ。
初めこそナイトメアかと思ったが、よく考えれば彼がノックや断り無しに入室するはずがない。
「……」
気のせいだと思いたかったが、静かな息遣いが聞こえる。
足音はどんどん近くなり、とうとうベッドの横に到達し、止まった。
足音の正体に気付かれないように、僕はそっと携帯電話の位置を確かめた。
“隙を見て逃げよう。それと、警察に……”
しかし、この判断より早く事態は動いた。
「一緒に来て」
幼い淡白な声に、僕は勢いよく顔を上げた。
聞き覚えのある声の主は、池田奈緒の部屋にいた、あの《ナイトメア》の少女だった。
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